Aug 20, 2026
2026年8月20日
AIニュースの多角的分析レポート
コミュニティ
2026年8月のコミュニティ枠に含まれる25件のうち、Docker VMM(新ハイパーバイザ)、NHKの熱帯夜データ分析、青空文庫「灯火文庫」、REALFORCEテンキーのプレゼント企画、「SREの知識地図」書評、いいね機能のない文章投稿サービス、さくらインターネットの不正アクセス、Dockge(Docker Compose管理ツール)の8件はAI/LLMと直接関係しない一般テック記事のため、分析対象から除外しています。またTLDR系ソースの記事は含まれていなかったため、TLDRピックアップ節は設けていません。
本日のコミュニティ言説の中心は、中国Z.aiの「GLM-5.3」が前世代からわずか2か月というハイペースで登場し、しかも事前学習のやり直しやモデル規模拡大ではなく後学習(post-training)強化だけで性能を押し上げた点にあり、「モデル規模競争」から「学習コスト対効果競争」への転換を印象づけた。国内でも332億パラメータの「LLM-jp-4 33B」が公開され、フラッグシップ級モデルの主戦場が中国と日本の双方で並走している。実務コミュニティでは、AIエージェントに自分自身のコードや計測結果を検証させることの危うさが繰り返し指摘され、64億トークン規模のログから見えた「コンテキスト分離」による敵対的レビューの有効性や、PIIマスキングで「漏れ率0%」という数字自体が誤りだった実例が、自己検証への過信に警鐘を鳴らした。マルチエージェント設計の分野でもLangGraphのソースコードを読み解く動きが進み、「オーケストレーターが情報のボトルネックになる」というAnthropicの指摘を裏付ける形で、言葉ではなく型付き状態を渡す設計思想への注目が高まっている。一方で、生成AI画像を使った政治家なりすまし投稿が発覚するなど、生成AIの社会的悪用リスクも現実の事件として浮上した1日だった。
新世代LLMリリースラッシュ — GLM-5.3と国産LLM-jp-4
- 中国のAI企業Z.ai(智譜AI)が次世代フラッグシップLLM「GLM 5.3」を2026年8月にリリースした。前世代のGLM-5.2(2026年6月)からわずか約2か月、半年で3世代というリリースサイクルの速さが中国系モデルの特徴として際立っている。
- GLM-5.3は8月14日に発表され、2026年8月19日時点でAPIとGLM Coding Planから利用可能。複雑なソフトウェア開発、長時間にわたるエージェント処理、サイバーセキュリティ領域が主な対象として想定されている。
- GLM-5.3、後学習だけで最前線へ――AIモデル競争は規模から費用対効果の時代へ — Zenn LLM
- 今回の発表で注目すべきは、単なるベンチマーク順位の向上ではない。GLM-5.3は前世代GLM-5.2と同じ基盤モデルを使用しており、事前学習のやり直しやモデル規模の拡大ではなく、後学習(post-training)の強化のみで性能を引き上げたとZ.aiは説明している。第三者評価では60点という評価も出ており、「事前学習の再投資なしにどこまで性能を伸ばせるか」という費用対効果競争への転換点として位置づけられている。
- GLM-5.3、後学習だけで最前線へ――AIモデル競争は規模から費用対効果の時代へ — Zenn LLM
- 日本国内でもLLMC(コンソーシアム)が332億パラメータの日本語LLM「LLM-jp-4 33B」を公開し、国産フラッグシップ級モデルの開発が継続していることを示した。中国勢の高速リリースサイクルと対比される形で、国内コミュニティの関心を集めている。
- LLMC、332億パラメータの日本語LLM「LLM-jp-4 33B」を公開 — はてなブックマーク IT
AIシステムの自己検証に潜む盲点 — 敵対的レビューと計測ミスの実例
- 単一のエージェントセッションにAIエージェント自身の実装をセルフチェックさせても、実装時の会話履歴やツール実行ログを背負ったままの状態では、論理バグや消し忘れにきわめて盲目になるという実践知が共有された。「厳しくチェックして」とプロンプトで指示するだけでは解決しない構造的な限界だという。
- 対策として、実装時のコンテキストを引き継がない別セッションのAIに敵対的レビューをさせる「コンテキスト分離」を導入したところ、64億トークン規模のログ分析の結果、実装の6割が叩き直しになったという。自分の思考の惰性を引きずったまま自己チェックする構造そのものに欠陥があることを裏付ける数値として注目されている。
- 計測そのものが誤っていたという実例も報告された。LLMに業務データを渡す際、正規表現で氏名を伏せるだけの小さなマスキング機構を35ケースの正解データで検証したところ「漏れ率0%」という結果が出たが、この数字自体が間違っていた。検査ロジックが見ていない名前のパターンが存在していたためで、前2本の記事と同じ形の誤り方だったという。
- マスキングの漏れは0%だった。検査が見ていない名前があった — Zenn LLM
- 両事例に共通するのは、「テストが通った」「レビューで問題なしと出た」という結果そのものを疑い、検証ロジックや検証者自身の設計を外部から問い直す視点の重要性であり、AI駆動開発における評価設計への関心の高さがうかがえる。
- AIにAIのコードを敵対的レビューさせたら6割叩き直された話 — 64億トークンのログが明かす『コンテキスト分離』の威力 — Zenn LLM
- マスキングの漏れは0%だった。検査が見ていない名前があった — Zenn LLM
マルチエージェント設計の実践知 — 状態指向アーキテクチャと論理的ガードレール
- マルチエージェントのオーケストレーションをLLMの「言葉」(自然言語の要約)で繋ぐと、要約のたびに情報が欠落し、長時間の運用で破綻するという問題意識が示された。Anthropicの「Multi-agent coordination patterns」が指摘する「orchestrator becomes an information bottleneck(オーケストレーターが情報のボトルネックになる)」という現象が、自作のマルチエージェントシステムでも実測で再現されたという。
- LangGraph(langchain-ai/langgraph、コミット1e44bda・2026-08-18時点)のソースコードを実際に読み込んだところ、そもそもノード間を自然言語で繋いでいないことが判明した。ノード間を渡るのは型付きの状態(channel_values)であり、ルータはその状態を読んで動的に次のノードを決定する設計になっている。要約による情報欠落を構造的に回避する設計思想として評価されている。
- 海外コミュニティ(Lobsters)では、Liquid Types(依存型の一種)をエージェントの「行動サンドボックス」として使い、論理的なガードレールでエージェントの挙動を制約するアプローチ「AeonBox」が共有された。型システムを使ってエージェントの許容行動範囲を形式的に定義する試みとして議論を呼んでいる。
- Liquid Types as a behavioural sandbox for agents — Lobsters AI
「LLMは本当に思考しているのか」を巡る言説とツール選定論
- 「LLMは『次の単語を当てる』だけなのに、なぜ思考しているように見えるのか」という中島聡氏のメルマガ記事の要約・解説がnoteに掲載され、Togetterでまとめられて389usersを集める話題になった。「現代AIの本質を端的に語っている」といった反応が寄せられ、LLMの仕組みへの理解を巡る一般層とエンジニア層双方の関心の高さを示している。
- 大規模言語モデル(LLM)は「次の単語を当てる」だけなのに、なぜ思考しているように見えるのか… — はてなブックマーク IT
- LLMを「予測に使う」実験も報告された。2006年頃から書いていた個人ブログをGitHub Pagesにアーカイブする過程で、「創作心理」という18件だけの、2010年で途切れているカテゴリをLLMに読ませ、「次に作るべきもの」を予測させるという試みが行われた。過去のテキストの蓄積からLLMがどこまで人間の創作パターンを読み取れるかを検証する、ユニークな自己実験として紹介されている。
- 20年前の自分のブログをLLMに読ませて、「次に作るべきもの」を予測させてみた — Zenn LLM
- ツール選定の観点では、「Claude Codeは非エンジニアにはやりすぎでは、Notion AIで十分では」という社内の声に対し、両者の公式ドキュメントを一次ソースで洗い直し(確認日: 2026-08-12)、構造差7軸と使い分けの4シグナルを整理する記事が出た。「Claudeのほうが賢いから」といった性能論ではなく、構造的な差異に基づいて反論を組み立てる姿勢が特徴的。
AI研究・基盤技術コミュニティの動き
- ゼロからスクラッチで学習させた3つのLLM(パラメータ数353M/316M/672M)に、同一の合成算術カリキュラム・同一の報酬関数・同一のハイパーパラメータでGRPO(強化学習によるポストトレーニング手法)を適用したところ、3モデルで異なる結果になり、モデル規模との間にきれいな相関が見られなかったという実験結果が共有された。事前学習(SFT)の段階ではモデルが新しい手法を採用し大きくなるほど検証損失が順当に下がったのに対し、GRPO適用後はV2・V3の両方で性能が悪化するという、直感に反する結果が報告されている。
- 重み空間(weight-space)から直接ネットワークの意味を読み取る手法が、初期化を共有したネットワーク間ではうまく機能するのに、独立に学習させたネットワーク間では破綻する現象について、通常「パラメータの対称性(隠れユニットの置換や符号反転)」で説明されるこの現象を、約180万個のSIREN(暗黙的ニューラル表現)をフィッティングして定量的に検証する研究が共有された。
- How much of the weight-space perception gap is actually symmetry? Evidence from ~1.8M fitted SIRENs — Reddit r/MachineLearning
- NeurIPS 2026の「RealPDE Competition」(Sim2Real/LTTTAトラック、実際のPIV計測+CFDによる流体力学データを使用)に参加するチームメイトを募集する投稿もあった。チーム上限は3名、締め切りは8月20日と迫っており、研究コンペを通じたコミュニティ内の協業募集の一例として見られる。
- Looking for 1 teammate — RealPDE Competition (NeurIPS 2026) — Reddit r/MachineLearning
- インフラ面では、Amazon Bedrock AgentCoreのフルマネージドなウェブ検索ツール(2026年6月16日に米国東部リージョンで提供開始)について、日本語での検索精度を検証する記事が出た。Bedrock経由のアップデートも2026年8月4日に追加されており、日本語圏でのエージェント基盤整備が着実に進んでいることを示している。
- Amazon Bedrock における日本語ウェブ検索機能の検証 — Zenn LLM
AIの応用実装と社会的リスク
- AIエージェント時代の「任せ方」を体系的に学べる無料の解説書がYouTube番組「アクロパパのAI教室」第3シリーズと連動して公開された。プロンプトの型、コンテキストエンジニアリング、ハーネスとループ、レビューゲートといったテーマを全10章構成でまとめ、各章に対応する動画へのリンクも付いている。
- 【無料・動画連動】AIと開発する技術 — エージェント時代の「任せ方」入門 — Zenn LLM
- M&Aマッチングシステム「KEPL(ケプル)」が2026年1月にリリースされた事例が紹介された。事業を譲渡したい企業に対し、10万社規模の買手候補の中から、事業内容・エリア・財務といった表面的条件だけでなく、組織文化や経営者の価値観といった深層的な情報まで含めてシナジーを分析するシステムで、AI導入によるM&Aマッチングの精度向上を狙った実装事例として注目される。
- 10万社から「本当に合う相手」を見つける——M&AマッチングKEPLの設計で考えたこと — Zenn LLM
- 一方で、生成AIの悪用が現実の政治活動に及んだ事例も発覚した。立憲民主党栃木県連に党員として登録している男性が、架空の女性になりすましてX(旧Twitter)に選挙・政治活動関連の投稿を行っていたことが判明し、投稿にある女性の画像は生成AIで作成されたとみられている。実在しない人物の生成AI画像を使った政治的なりすましという、選挙分野における生成AI悪用の具体的リスクを示す事案として報じられた。
- 架空の女性に成り済まし政治投稿 立憲民主党栃木県連の党員男性、生成AIで画像作成か — はてなブックマーク IT
AI最新ニュース
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AI業界は本日、「安全優先の減速」と「資本による拡張」という二つの相反する力が同時に強まる一日となった。OpenAIはサイバーリスクを理由にフロンティアモデルの訓練を一部凍結し続ける一方、中国発のオープンモデル(GLM-5.3、Kimi K3、Qwen)が性能・価格の両面で急速に米国勢へ迫っている。資金面ではStripeが「シンギュラリティ」を理由に非上場を維持し、Anthropicは上場に備えて創業者への種類株発行を準備、Etched・Higgsfieldなど新興企業も巨額調達を続けるなど、AIバブル論争をよそに資本は流入し続けている。他方で、AIを悪用した産業制御システムへの攻撃やプロンプトインジェクション・ワームへの懸念、Metaの児童依存訴訟や政治家ディープフェイク広告など、AIへの信頼を揺るがす事案も相次いでおり、「実装の速さ」と「信頼の確立」の間の溝が業界全体の焦点になりつつある。
OpenAIが「安全優先」で開発ペースを減速
- OpenAIは火曜、一部のAI開発ペースを落とし、セキュリティと安全策を強化したと発表した。約2週間のフロンティア訓練の一時停止を経ており、IPOを控え競争が激化する中でもあえてブレーキを踏む異例の判断となった。
- OpenAI hit the brakes. Now what? — The Verge AI
- Openai Slowed Training over Cyber Risks — TLDR AI
- Preparedness Framework(安全性評価の枠組み)を書き直し、監視強化・研究環境の隔離強化・アライメント作業の訓練初期段階への前倒しを進めている。小〜中規模の低リスクなワークロードは再開されたが、最大規模のフロンティア強化学習(RL)実行と、「Astra」および重要なサイバー関連ワークロードは停止されたままである。監視強化により計算コストは約20%増加する見込み。
- 「Astra」は未リリースのモデルで、OpenAIの定義する「Critical(重大)」サイバー脅威閾値に達する可能性があるとされる。Hugging Faceの情報漏えいに関する技術的な事後検証報告書、およびAstraを「Critical」相当と判定した根拠はいずれも未公開のままで、透明性への疑問が残る。
- 安全性強化の一方で運用トラブルも発覚した。CodexのGPT-5.6 Sol搭載バージョンに、一時フォルダ向けのクリーンアップコマンドがホームディレクトリごと実際のユーザーファイルを削除してしまうバグがあり、OpenAIは削除対象の事前検証を追加し、フルアクセスモードが誤って発火しないよう修正した。
- 一方でOpenAIは、信頼できる脆弱性発見者に強力なモデルへのアクセスを提供し脆弱性報告を早める狙いの「Trusted Access for Cyber」プログラムについて、研究者側からアクセスを取り消されたとの不満が出ている。安全性強化を掲げる同社が、外部の防御側研究者への協力を絞る動きとして注目される。
AIを悪用したサイバー攻撃の脅威拡大
- 米NSA・CISA・FBIが共同で、攻撃者がAIを使い産業制御システム(ICS)向けのエクスプロイトを構築していると警告した。特にSiemens S7コントローラを標的にしたスクリプト生成が確認されており、攻撃に必要な時間とスキルの敷居が大幅に下がっているという。エネルギー・水道・製造業など米国の重要インフラ分野が影響を受ける。
- The Decoderの分析では、AI企業自身が社内AIシステムに基本的な統制策を完全には適用できていない実態が指摘されている。開発を加速させる企業ほど、自社システムのガバナンスが後手に回っている構図が浮かぶ。
- AI labs are failing to keep their own systems in check — The Decoder
- セキュリティ研究者Daniel Miesslerは「プロンプトインジェクション・ワーム」の到来を警告する。オープンソースモデルが2026年末〜2027年初頭にGPT-6やFable 5に匹敵・凌駕する水準に達し、誰もがメール・テキストをAIエージェントに処理させる状況になれば、ゼロデイのプロンプトインジェクションがメールや各種メッセージ経由で被害者から被害者へと連鎖的に伝播する「ワーム」攻撃が現実味を帯びると論じている。
- 防御側の動きとして、Vercelは自社のFirecracketベースの「Vercel Sandbox」を2週間で脱獄できた研究者に最大100万ドルを支払うHackerOneバグバウンティ企画を開始した。同社CTOが安全策なしのオープンウェイトモデルをSandboxに向けた実験では脱獄には至らなかったものの、モデルはゲストカーネルをマッピングし、再現用VMを構築し、ファザーまで書き上げたという。
中国発オープンモデルの急伸とチップ供給網
- Z.ai(智譜)の新モデル「GLM-5.3」がArtificial Analysis Intelligence Indexで60点を記録し、Kimi K3と並んでオープンモデル首位に浮上した。前世代のGLM-5.2から7ポイントの大幅向上だが、重みの公開は遅延している。
- GLM-5.3はAPI提供を開始し、価格は前世代から据え置きの入力100万トークンあたり1.40ドル・出力同4.40ドル(キャッシュ入力は0.26ドル、当面無料)。前週にはCursorの未発見脆弱性を突き止めるほどのサイバー能力を披露したと報じられており、性能向上とコスト据え置きの両立が開発者コミュニティで注目されている。
- 中国は米国製Nvidia H200チップの小口流入を国内AI企業向けに解禁し始めた。米国との性能競争を維持するための現実的な対応と見られ、輸出規制の運用に微妙な変化が生じている。
- 「小型モデルが大型モデルに勝る」現象も顕著になっている。Qwen3.8-27Bは135モデル中1位(Intelligence Index 52点)を記録し、753BパラメータのGLM-5.2を上回った。生成速度は遅い(3.1倍多くトークンを生成)が、暗記に頼らず推論に重きを置くアーキテクチャにより、ローカル環境でもクラウドの最先端モデルに匹敵する結果を出している。
- 米国側でも新興ラボの動きがある。Mira Murati率いるThinking Machinesは7月にゼロから訓練した初のモデル「Inkling」をApache 2.0ライセンスでHugging Faceに公開した。66層構成で各層256エキスパートのうち6個のみが起動するMoE設計、大半の層は直近の短いテキスト窓しか参照できず一部の層だけが全文脈にアクセスできる構造など、他社が近年採用を避けてきた位置エンコーディング手法も採用している。
AI企業への巨額投資と評価額の高騰
- Stripeは投資家向け書簡で1月1日を「シンギュラリティの始まり」と宣言し、これを非上場維持の理由の一つに挙げた。実際には上半期の売上成長率41%を記録し、OpenRouterの80億ドル超での買収も確定させている。Hassabis、Altman、Muskら業界リーダーも相次いで「シンギュラリティは既に始まっている」との発言をしており、この表現が業界内で流行語化しつつある。
- Anthropicは上場を見据え、創業者陣に特別議決権を持つ株式クラスを付与する準備を進めていると報じられた。CEOのDario Amodeiの持株比率は約2%にとどまるとされ、外部株主の圧力から経営陣を守る狙いがある。信託人による取締役会構成の維持も予定されている。
- 業績面ではOpenAIとAnthropicの明暗が分かれつつある。OpenAIの第2四半期売上成長率は18%にとどまり損失は拡大した一方、Anthropicは同期間で売上が2倍以上に伸び、初めてOpenAIを追い抜き、さらに小幅ながら営業黒字化も達成した。
- 推論特化ハードウェアのEtchedはJane Streetへ初のハードウェアラックを出荷し、同社主導で7億ドルを評価額210億ドルで調達した。Kleiner Perkins、Sequoia、a16z、Peter Thiel、Bain Capital Venturesなど著名投資家が名を連ねる。
- From Zero to One | Etched — TLDR AI
- AI動画・画像生成のHiggsfieldは4億ドルのシリーズBを評価額54億ドルで調達し、8か月前の13億ドルから評価額を4倍に伸ばした。年換算売上7億ドル、ユーザー数3000万人、Fortune 500企業390社との取引を報告している。動画生成は1分で6万語分の処理に相当するとされ、計算資源確保が競争力の鍵になっている。
- Nvidiaはチップの優位性だけでなく「資本力」を武器に競争優位を維持しようとしている。Wall Street各社と5000億ドル規模のGPU向け金融契約を締結したほか、OpenAIのオハイオ州データセンター向けに最大105億ドルの支援を発表した。AMDやGoogleが技術面で追い上げる中、CEOのJensen Huangは多くのフロンティア企業が「バランスシートや与信能力を超える速さで成長している」と指摘している。
- こうした巨額投資の裏で、AI計算資源の価格付けというインフラ的な課題に取り組むスタートアップも登場している。Silicon Dataは、データセンター・GPUに年間数千億ドルが投じられる中で、企業が計算コストの価格変動リスクをヘッジできる仕組みづくりを進めている。
- Meet the startup helping Wall Street put a price on AI compute — TechCrunch AI
- 買収・統合の観測も続く。AIコーディングスタートアップCognitionのCEOは、SpaceXが同社買収を試みたとの報道を否定した。SpaceXは既にCursorを買収済みで、OpenAIやAnthropicへのエンタープライズAI競争でのキャッチアップを急いでいるとされる。
データセンター電力・コンピュート基盤への投資競争
- TerraPowerの原子力発電プラントは、AIデータセンター向け電力契約の獲得競争において他の電源より戦略的優位性を持つとされる。データセンター誘致合戦が電力調達力そのものを競争軸に変えつつある。
- 推論チップ企業Cerebrasは新型コンピュータ「CS-4」がNvidia対比の速度優位性をさらに拡大したと発表した。前世代機(既にNvidia搭載システムより高応答とされる)から複数倍の高速化を実現し、現在は少数顧客向けにサンプル出荷中で、第3四半期に本格提供を予定している。ラック1台にウェハースケールチップ3枚を搭載しながら部品点数を50%削減した構成も報じられている。
コンシューマー向けAIアシスタントの機能拡充競争
- Googleは新学期シーズンを前に、Gemini内に学生専用ハブを展開する。研究資料をまとめるスタディノートブック、フラッシュカード作成、練習問題、グラフ・画像対応の強化、テスト日程の登録機能などを一括提供し、OpenAIとの学生ユーザー獲得競争を強めている。
- Google Gemini is getting a dedicated student hub — The Verge AI
- Google packs Search and Gemini with new AI study tools — TechCrunch AI
- MetaはAIチャットボット「Meta AI」のMacデスクトップアプリを公開した。Apple Silicon搭載Mac・macOS 15以降に対応し、画面共有機能でMeta AIが画面内容を見て提案・質問応答・コンテンツ生成を行えるほか、全アプリ横断のディクテーションにも対応する。日本語報道では広告分析連携など業務向け機能も強調されている。
- Meta AI is getting a Mac app — The Verge AI
- 「Meta AI」のMacデスクトップアプリがリリース。画面共有・広告分析連携など業務向け機能を搭載 — テクノエッジ
- Amazonは米国内の対応Fire TVデバイス全機種でAlexa+をPrime会員でなくとも無料化し、対象ユーザーを自動アップグレードする方針を発表した。音声AIアシスタントの裾野拡大競争が家電・エンタメ機器領域にも及んでいる。
- Googleは一方で、Gemini生成コンテンツの可視透かしを外せるトグル機能を追加すると発表した。法的義務がある場合を除き無効化が可能で、目に見えないSynthIDやC2PAメタデータは残るとするが、これらはSNS投稿時に容易に失われるため、AI生成物の識別可能性を巡る批判も出ている。
- Google Opens the Gates of AI Slop Hell — TLDR Design
エンタープライズ向けAIエージェントの実務浸透
- 会議ノートテイカー市場が過熱する中、Calendlyはミーティングスケジューリングアシスタント「Callie」を投入した。日程調整サービスがAIエージェント機能を取り込む動きが加速している。
- Calendly throws its hat into meeting note-taker circus — TechCrunch AI
- 法律AI企業Harveyは「Harvey II」で、エージェントが案件の文脈・過去の作業スタイル・権限設定を引き継いで作業を開始できるようにした。従来はタスクごとにゼロから文書・背景情報を与え直す必要があったが、これにより弁護士がより高度な業務をエージェントに任せられる余地が広がるという。
- Introducing Harvey II — TLDR AI
- エンタープライズAI分析市場も専門化が進んでいる。VentureBeatはRob Strechay氏(theCUBE Researchの元マネージングディレクター)を初代リード・アナリストとして迎え、企業のAI導入を判断するCIO・CTO層向けの専門調査体制を強化した。エンタープライズAIスタックの急速な刷新に伴い、意思決定者向けの専門分析へのニーズが高まっていることを示す。
AIへの不信感の高まりと悪用・訴訟リスク
- TechCrunchは、AIが社会に浸透するほど消費者の警戒感が強まるという逆説的な現象を報じた。シリコンバレーは「普及イコール受容」ではないという現実に直面しつつある。
- AI was supposed to win people over by now — it hasn’t — TechCrunch AI
- Metaは、女性政治家を「ヌード化」できると謳うアプリの広告を掲載していたことが判明した。ある広告には米国の政治家に酷似したディープフェイクのポルノ動画が含まれていたとされ、プラットフォームの広告審査体制への批判が強まっている。
- Meta ran ads for an app promising to nudify female politicians — Ars Technica AI
- Metaはカリフォルニア、コロラド、ケンタッキー、ニュージャージーの4州が起こした連邦訴訟で法廷に立った。各州はMetaが子どもを依存させる設計のテクノロジーで若年層のメンタルヘルス危機を助長し、安全性について虚偽の説明をしたと主張し、Metaの時価総額の約14%に相当する約2000億ドルの損害賠償を求めている。この裁判は同種の集団訴訟群における最初のベルウェザー(試金石)裁判となる。
- 破綻した米格安航空会社Spiritの従業員データを巡り、Googleが大量購入を進めていることに客室乗務員らが強く反発している。倒産手続きの中でAI企業が個人データを取得する事例として、プライバシー面の懸念が浮上している。
AIコーディングエージェントと開発基盤の進化
- Cursorは、Gitの分散型・パックファイル中心のアーキテクチャが大規模な集中ホスティングサービスとして運用する際にいかに困難かを分析した記事を公開した。ファイルシステム、パックファイル、あるいはGit自体を分散させるアプローチなど、スケール対応の複数の設計案を提示している。
- Git at any scale · Cursor — TLDR AI
- AI開発ツール企業Warpは「Warp Factories」を発表した。「ソフトウェアファクトリー」型のエージェントループをインフラとして提供し、Stripeの「minions」システムやRampのバックグラウンドエージェントのような先進事例を、リソースの乏しい中小企業でも構築できるようにすることを狙う。
- 軽量コーディングエージェントの「fx」がZig言語で開発・公開された。バイナリサイズ6.39MiB、コールドスタート10マイクロ秒という軽さが特徴で、Apache-2.0ライセンスかつモデル非依存、リソース制約のあるサンドボックス環境への組み込みを意識した設計になっている。
- Vercel AI SDKの新機能「Code Mode」は、モデルがJavaScript/TypeScriptコードを書いてツールを呼び出せるようにする仕組みで、隔離されたQuickJSサンドボックス内で実行される。個別にツールを逐次呼ぶのではなく、大きなツール応答をコード側でフィルタしたり、複数ステップの処理をコードの制御構文で組み立てたりできる(Node.js 22以上が必要、実験的機能)。
- Code Mode — TLDR
- Liquid AIは自律コーディングエージェント2体に、実運用レベルのBPEトークナイザートレーナー「toktoktok」をゼロから構築させる実験を行い、成果をオープンソース化した。信頼できる長時間稼働のエージェントワークフローを設計する鍵として、具体的な仕様定義・複数領域にまたがるタスク設計・外部検証インフラの3点を挙げている。
「拡張可能なソフトウェア」とAIによる創造・開発職の変容
- 22年間プロダクティビティ市場を見てきた業界関係者は、2019年の「ノーコード革命」への賭けを踏まえ、次の潮流は「堅牢な基盤+カスタムコード」による“マレアブル(可鍛的)ソフトウェア”になると論じている。AIにより誰もが小規模な個人向けアプリを作れるようになった一方、チーム利用にはデータ関係性・同時編集・権限管理など従来型基盤の堅牢さが必要になるとの指摘だ。
- 同様の議論として、「堅牢なコア+権限ベースのサンドボックス+LLM」の組み合わせが、これまで対応しきれなかったロングテールなニーズ(“Software for One”)に応える鍵になるという分析も出ている。Y Combinatorが提唱する「Small Software」概念や、ユーザー自身がカスタマイズを共有し合えるLLMネイティブなソフトウェア(例: Pi)が具体例として挙げられている。
- UXデザイン領域では、Figmaの「Make Designs」(現First Draft)のような生成AIツールがインターフェース制作を高速化する一方、デザイナーの役割が消えるのではなく「シフトする」と分析されている。AI生成インターフェースが似たようなパターンに収斂しやすい中、真の競争優位は依然としてAIが独自に収集できない深いユーザーリサーチや行動観察にあるとされ、AIの既製回答に頼りがちなジュニアデザイナーが実務経験を積む機会を失うリスクも指摘されている。
- ベテランデザイナーが会議・ドキュメント作成・プロセス業務に疲弊した末、AI支援ツールを使い自らプロダクトを直接ビルドすることで仕事への情熱を取り戻したという体験談も紹介されている。アイデアから6週間でApp Storeへの公開に至ったサイドプロジェクトを機に、レイオフ後は「デザイナー兼ビルダー」路線へ本格転換し、従来型のハンドオフ・仕様書作成プロセスを守ることより、プロダクトに近い場所で適応し続けることの重要性を説いている。
- THE Evening Shift — TLDR Design
AI創薬・生命科学研究への応用
- Anthropicは、Claudeモデルに体内の標的構造にドッキングする小型タンパク質を自律設計させる実験で、業界平均の10〜15%を大きく上回る最大35%のヒット率を達成したと発表した。Claude自体が創薬プロセスの全工程を担ったわけではなく、既存の専門特化ツール群を操作・指揮する形で成果を出しており、この手法は他のどの研究室でも利用可能だとしている。ただし独立した検証はまだ行われていない。
- バイオAI企業GenBioは、細胞の自然状態と摂動への応答をシミュレートできる「バーチャルセル」の世界モデル「AIDO Cell」を発表した。現時点では生物医学研究で広く使われるヒト培養細胞株K562とHepG2に対応しており、今後アカデミア・バイオテック・製薬向けの早期アクセスプログラムを準備している。遺伝子・タンパク質・経路への摂動とその予測結果を追跡することで、仮説生成や発見のスピードを高める可能性がある。
- AI研究そのものの自動化を巡る議論も深まっている。Redwood Researchのチーフサイエンティストであるライアン・グリーンブラット氏は、人間の専門家データがなくてもアルゴリズムの進歩自体がAI性能向上の主要な原動力になり得ると論じた。元YouTube Shorts共同創業者でOpenAIのマルチモーダル後段学習を率い、現在Meta Superintelligence Labsに所属するシュチャオ・ビー氏も、洗練されたデータ分布の重要性を強調しており、両者の見解には「人間データの重要性」という従来通説への再考を促す共通点があるとされる。
- Rethinking the Data Moat — TLDR AI
生成AI画像・動画ツールの進化
- xAIはGrok向けの新しい画像生成モデル「Imagine Image 2.0」を「Quality Mode」として公開し、API提供も予定している。2026年8月7日時点のArenaベンチマークでは、高速版の「low」バリアントが画像編集・テキストto画像の両カテゴリで世界2位につけ、Image Edit ArenaでElo1439(OpenAIのGPT-Image-2は1463)、Text-to-Image Arenaで1320(GPT-Image-2は1380)を記録し、OpenAIにわずかに次ぐ結果となった。Magic Wand、セグメンテーション、背景除去、Multi-Ref編集、Smart Resizeなど実務向け編集機能を多数搭載し、将来的な動画生成でのキャラクター・シーン一貫性も見据えている。
- 同時に、AI動画・画像制作ツールの新規参入も相次いでいる。AIエージェントが企画・脚本・編集まで担う動画制作サービス「Pixo」、画像・動画・音楽・テキストを一括生成する「Neural Network Online(homiwork)」、スケッチやテキストからロゴを生成・ベクター化できる「Logo Diffusion」などが登場しており、生成AIクリエイティブツール市場のコモディティ化が進んでいることを示している。
- Pixo - Your AI Film Crew — TLDR Design
- Neural Network Online — Image, Video and Music Generation — TLDR Design
- AI Logo Generator & Logo Maker | Logo Diffusion — TLDR Design
TLDRピックアップ(その他テック)
- Docker社は、コンテナ向けの高性能な新ハイパーバイザ「Docker VMM」をパブリックベータとして公開した。Windows・macOS対応の最新「Docker Desktop v4.86」で利用できる。
- Pythonライクな新言語「Mojo」がApache 2.0ライセンス(LLVM例外付き)で完全オープンソース化された。コンパイラ・ツールチェーン一式がGitHubで公開され、Windows版の開発も表明されている。
- 米マテルは初代Xboxを実物大で再現した3509ピースのブロック組み立てセットを発表した。価格は約5万2000円で、米Amazon・Best Buy・Mattel Creationsで予約受付中。
- 初代Xboxの実物大ブロックセットがマテルから発売へ。約5万2000円 — テクノエッジ
- macOS Tahoe 26.7のリリース候補版に隠されていたデモ動画から、カメラ搭載AirPods(社内コードネーム「B790」)の存在が明らかになった。Visual Intelligence・Siriと連携し、対象物の識別や情報保存が可能とされ、早ければ次期iPhoneと同時期の9月発表が噂されている。
- Googleは今秋発売予定の「Googlebook」向けに、大画面デバイス用カメラアプリ「Desktop Camera」の完成版UIを公開した。外部USBウェブカメラ対応やML活用の書類スキャン、QRコード読み取り機能などを備え、PixelタブレットのカメラUIに近い操作性となっている。
- Final UI for Googlebook ‘Desktop Camera’ app revealed — TLDR Design
- アクセシブルなデザインが承認されても、実装段階でアクセシビリティの「担当者不在」により製品がアクセシブルでなくなる問題を扱った記事。alt属性の欠如やキーボードフォーカスの不備は開発者の知識不足ではなく、デザイン・開発・QA間の引き継ぎに責任の所在がないことが原因だと指摘し、テスト可能な要件文書化と各段階での担当割り当てが解決策として提案されている。
- Accessibility getting dropped in the process — TLDR Design
- Instagramの10年ぶりとなるブランド刷新について、Meta担当ディレクター2名が舞台裏を語った。1つの大胆な決定ではなく、数千の細部にわたる意思決定の積み重ねでできあがったといい、数十億人規模のグローバルなユーザーに向けて、柔軟に進化できるシステムとして設計された。
- カナダのプリンスジョージにあるシネプレックス映画館が、公式ポスターの配送トラブルにより「スパイダーマン: ブランニュー・デイ」のポスターをスタッフの手描きで代用したところSNSで話題になった。公式アートワークより個性があると評判を呼んでいる。
- イラストレーター・アニメーターのGaia Alari氏が、チャコールのにじみやクロスハッチングなど伝統的な技法を用いた、手描きならではの質感あふれる動物・身体・感情の作品群を紹介されている。MoMAやThe Atlanticとの仕事のほか、Coldplayなどのクライアントワークも手掛ける。
- 中国の民間ロケット企業LandSpaceが、8月19日に自社ロケット「朱雀三号(ZQ-3)」の第一段ブースターを2回目の試みで垂直着陸回収させることに成功した。ステンレス製の機体と液体酸素・メタンエンジンを採用しており、SpaceXのFalcon 9をさらに下回るコストを目指せる可能性がある。
- SpaceXは、インド洋に着水後24日間漂流していたStarship宇宙船をクリスマス島まで曳航し、回収に成功した。従来は着水後に自然崩壊していたが、今回は機体が転倒しつつも原形をとどめており、実機検査による貴重なデータ取得が期待されている。
AI研究・論文
24件の記事を精読し、テーマ別に統合したMarkdownを出力する。
24件のarXiv/TLDR記事をテーマごとに整理し、各分析ポイントに出典リンクを付記したレポートを作成した。以下がその内容。
AI業界では今週、「エージェントに実行権限をどこまで、どう安全に渡すか」という運用面の課題が研究の中心的テーマとして浮上している。オープンウェイトモデルの安全機構がわずか数分で剥がされてしまう脆弱性への対抗策として、答えを偽装する「おとり」技術が提案される一方、ツール呼び出しやAPI予算・承認フローを実行時に強制するガバナンス層の研究が複数同時に登場した。並行して、GLM-5.2級の巨大モデルを64基のGB300 GPUクラスタから8GBのラップトップGPUまで縦横に動かす、ポストトレーニング基盤とエッジ推論システムの実装報告が相次いでいる。医療・臨床領域ではLLMエージェントが依然として基本的な構造化タスクに失敗する例が報告され、公平性やデータラベルの完全性といった評価基盤そのものへの疑義も強まっている。全体として、モデル性能そのものよりも「モデルをどう安全に・効率的に・検証可能に運用するか」というシステム面の研究が今回のarXiv/TLDRセットの主軸になっている。
エージェント実行の安全性とガバナンス:性善説から実行時統制へ
- オープンウェイト言語モデルの安全アラインメントは「abliteration」という手法により、リリース後わずか数分で除去可能であることが改めて指摘された。これに対しMicrosoftの研究者らは、拒否を防ぐのではなく拒否が剥がされた状態でもっともらしいが虚偽の回答(デコイ)を返す「decoy hardening(Fool’s Gold)」という防御技術を提案している。9Bから122Bまで5系統・7モデルに実装したところ、効力ゲートを通過した6モデルでは、攻撃者が引き出した「解除済み」回答のうち51%〜90%(主要モデルでは最大0.90)が実際にはデコイであったと報告されている。ただしこの防御はコンテキスト内ジェイルブレイクには無効で、初回リリースモデルにのみ適用可能という限界も明記されている。
- エージェントが実際にツールを実行する段階でのガバナンス研究も同時に進んでいる。「A Policy Algebra for Trust-Preserving Agentic AI Execution」は、権限・データアクセス・予算・承認・監査証跡を単一の合成規則で扱う「ポリシー代数」を提案し、実行ランタイムがルール違反イベントの94.8%を検知・是正しつつ、正当なタスクの86.9%は完了できたと報告している。エンタープライズ用途では「タスクが成功したか」だけでなく「認可された経路で完了したか」が信頼性の定義そのものになりつつあることを示す内容。
- 同じ問題意識を別角度から扱う「Aegis」は、モデルの出力を「行動の提案」として扱い、信頼できる決定層を介してfail-closed(判断不能時は拒否)で仲介するランタイム統治システムを提案している。プロンプトレベルの制御はモデルの振る舞いを誘導できても実行境界そのものは作れない、という点を出発点にしている。
- ツール実行のメモリ安全性という、より足元の課題も指摘されている。「SkillEffect」は、モデルがAgent Skillの手順・リソース制約を具体的なコードへ変換する際、意味的には正しいプログラムでも1回のツール呼び出しでメモリ上限を超えてしまう問題を扱い、検証可能な下限実装(checked lowering)による対策を提示している。
- SkillEffect: Checked Lowering for Memory-Bounded Agent Tools — arXiv AI+ML+CL
- 臨床のような厳格な規制プロセスでも、LLMエージェントの構造化実行はまだ脆い。「GxP-Agent」は、臨床試験プロトコルをCDISC標準の解析用データセットに変換するタスクで、5つのフロンティアモデルによる計11回の単発試行のすべてが有効なデータセットを生成できなかったと報告しており、規制プロセスの順序をDAG(有向非巡回グラフ)として明示的にエンコードするマルチエージェント方式でこの失敗に対応しようとしている。
大規模ポストトレーニング基盤とエッジ推論:GPUクラスタからラップトップまで
- LMSYS(slimeの開発チーム)は、フロンティア級モデルの強化学習ポストトレーニングを本番運用レベルで回すシステム「Miles v0.1」を公開した。ロールアウト(SGLangエンジンによる軌跡生成)、隔離されたサンドボックス環境でのマルチターン対話、非同期学習、モデル重みの無停止更新までを一気通貫でパッケージ化しており、GLM-5.2をTerminal-Useタスクで64基のNVIDIA GB300 GPUを使って学習させる例が紹介されている。正確性・効率性・信頼性・スケーラビリティを同時に満たす設計を掲げ、フロンティア規模のRLを研究者に開放することを狙っている。
- 対照的にFreeTokenは、巨大MoEモデルを個人のPCやワークステーションで動かすための「エッジネイティブ」な推論システムを提案している。専門家(エキスパート)の配置やCPU/GPUの実行分担、エージェント状態の再利用を、実際に使えるメモリ帯域に応じて動的に組み替える設計で、20種類以上のMoEモデルをサポート。8GBのラップトップGPUで35Bモデルを、ゲーミングデスクトップで284Bモデルを、単一ワークステーションGPUで753BのGLM-5.2を動かせると報告している。これはオープンウェイトの巨大モデルを「データセンター専用」から「個人が所有するハードウェアで実用的に動くソフトウェア」へと変える方向性を示す。
- 両者を合わせて見ると、学習側は「GB300クラスタでのフルスタックRL」、推論側は「ラップトップでの753Bモデル運用」という両極端の規模でインフラの実装が同時に成熟しつつあり、フロンティアモデルの学習と配布のコストギャップを埋める動きが加速していることがうかがえる。
ポストトレーニングにおけるデータ選定手法の精緻化
- 「Data-DPO」は、教師ありファインチューニング(SFT)で使うデータの価値をモデルによらない静的な指標として扱う従来手法を批判し、対象モデル自身の能力分布との適合性を直接最適化する「Direct Preference Optimization」ベースのデータ選定手法を提案している。少数の有効なサンプルに絞ることで学習コストを削減しつつ性能を維持することを狙う。
- 「Hierarchical Data Selection」は同じ課題を別角度から扱い、埋め込み空間で多様性を直接測定すると意味的な主方向・微細な監督差・局所ノイズが混同されてしまう問題を指摘。粗から細への階層的な多様性測定(多様体カバレッジとスパース特徴カバレッジ)によって、より質の高いサブセット選定を実現しようとしている。
- 両論文とも「学習データをどれだけ集めるか」ではなく「どのデータが今のモデルにとって本当に価値があるか」を問い直す方向で一致しており、SFTデータセットの肥大化に対するコスト意識の高まりを反映している。
「思考」のコスト:推論エフォートというAPI契約
- 「The Price of Thinking」は、APIで購入しているのは単なる「モデル名」ではなく、モデル・推論エフォート項・出力形式・価格スケジュールを含む「日付付きの契約」であると位置づける。Sonnet 5を対象に、明示的にhigh effortを指定した場合と省略した場合を、2026年AIME問題30問×各5回試行という登録済みの対照実験で比較しており、推論エフォートの指定有無がAPI利用者にとって実質的な契約条件として扱われるべきだと主張している。
医療・臨床ドメインへのAI応用:構造化データと縦断モデリング
- 電子カルテ(EHR)の縦断的な変化を捉える「Mr.Dec」は、30日以内の再入院予測において、多くの既存手法が入院中の複雑な経過を固定表現に圧縮し、日単位の細かい臨床シグナルを失っていると指摘。日次スケールでのマルチモーダル・縦断モデリングによってこの粒度の損失を防ぐアプローチを提案している。
- 放射線科レポートの構造化抽出を扱う「FedPref」は、施設間でラベルの分布が偏り、データプールも困難という制約下で、フローズンな公開LLMが複数のJSON抽出候補を提案し、各施設のローカルアノテーションでランク付けして連合学習的に統合する枠組みを提案している。小規模病院のデータ不足を前提にした設計である点が特徴。
- 腫瘍領域の生存予測を扱う「MultiSigBERT」は、単一モダリティや時間情報を欠く従来の生存分析モデルの限界を超え、自由記述の臨床レポート・数値測定・構造化変数を統合したマルチモーダル・時系列モデリングを提案している。
- これら3本と前述のGxP-Agent(臨床試験プログラミング)を合わせると、医療AIの研究関心は「診断精度」そのものよりも、縦断性・施設間の不均衡・規制順守という運用上の制約下でどう構造化データを正しく作るかという一段実務寄りの課題に移っていることがわかる。
評価基盤への疑義:ラベル漏洩・公平性測定・プライバシーリスク
- 組織文書の機密性分類を扱う「Benchmarking Classical and Transformer-Based Models for Document Sensitivity Classification」は、この分野で見過ごされがちな「ラベル漏洩」問題を指摘している。分類マーカーが本文中に残存したまま学習データとして扱われることで、モデルの信頼性評価そのものが歪んでしまうという、規制違反やセキュリティ侵害に直結しうるリスクを扱う。
- 「Position: Fairness Failure in Generative Models is an Evaluation Problem」は、生成モデルの公平性問題そのものが「評価の問題」であると主張するポジションペーパーである。公平性の失敗は複数要因から生じるが、根本的には論文間で公平性の測定結果が比較不能であることに起因すると論じ、測定基盤の標準化を訴えている。
- プライバシー面では「SW-ProxyCE」が、公開されているEEG(脳波)基盤モデルのエンコーダから、非公開の下流モデルに対してクエリなしで敵対的サンプルを転移できるという、これまで未検討だったセキュリティリスクを実証している。EEG基盤モデルの公開が下流モデルの脆弱性に直結しうるという警鐘である。
- これら3本はいずれも、モデルの「性能」ではなく、それを測る・守るための土台(ラベル品質、評価の比較可能性、公開エンコーダの安全性)自体に欠陥があるという共通の警鐘を鳴らしている。
モデル編集とアーキテクチャの基礎研究
- 「DOW-KE」は、知識編集(knowledge editing)における従来の「locate-then-edit」方式が、中間的なアンカー表現の最適化に留まり、多層にわたる重み更新の合成効果がフォワードパス全体で最適化されないという構造的欠陥を指摘。アンカーを介さず、エンドツーエンドで重みを直接最適化する手法を提案している。
- マルチタスク学習の「EMAN」は、既存手法がハード共有・複数パス・エキスパート混合などいずれも事前定義された構造やタスク境界に依存している点を批判し、単一パスの計算から出発し、持続的な最適化上の証拠が現れたときにのみ新しい独立パスを成長させるという、容量を動的に生やす設計を提案している。
その他の応用研究
- シドニー都市圏のコネクテッドビークルのテレメトリデータを使い、事故が起きる前に危険運転のホットスポットを予測する研究。従来の事故後分析型の道路安全モニタリングから、ニアミス検知に基づく予防型へのシフトを提案している。
- ハイブリッドPDE(偏微分方程式)パラメータ推定において、モデルが仮定する演算子(オペレータ)自体が誤っているケースと、単にパラメータが識別不能なケースを、オラクルなしで単一のフィットから見分ける「参照フリー」な統計的検定手法を提案している。
- 知的学習システム(ITS)のログ分析では、教師なしクラスタリングによる「学習者タイプ」がしばしば学習成果を予測すると仮定されがちだが、EdNet-KT3の5,000人の学習者データで検証したところ、得られたクラスタは実際には「習熟度」ではなく「エンゲージメント(学習への関わり方)」を追跡しているに過ぎないという結果が示された。学習分析分野への警鐘となる知見。
- クラス不均衡データにおけるランダム化ニューラルネットワークの頑健性を高める「RoBell-RVFL」は、SMOTEやクラス重み付けなどの既存手法がクラス比率のみに着目し、クラス内部の分布やラベルノイズへの脆弱性を見落としている点を改善する、頑健な一般化Bell型のRandom Vector Functional Linkネットワークを提案している。
- 脳とことばの対応関係を扱う「MD-SigLIP」は、LLMの進歩によって脳言語デコーディングが大きく前進した一方、デコードされた内容が本当に神経表現を反映しているのか、それとも言語モデル自身によって再構成されているだけなのかが不明瞭という問題を扱い、マージン正則化付きの構造化意味アラインメント手法でこの解釈可能性の問題に取り組んでいる。
- 数学研究へのAI活用を扱う「The Problem Is the Problem」は、フロンティアモデルの推論能力と専門家によるレビュー能力がともに希少資源である現状で、多くのAI-for-mathワークフローが人間の労力を「研究課題の選定」と「最終検証」という両端に集中させている点に着目し、この資源配分をどう最適化してAI支援の数学的発見をスケールさせるかを論じている。
- The Problem Is the Problem: Towards Scalable Mathematical Discovery — arXiv AI+ML+CL
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