Sep 23, 2026
2026年9月23日
AIニュースの多角的分析レポート
コミュニティ
2026年9月後半のコミュニティ発信は、単一の巨大モデルではなく「システム設計・検証手法」そのものが主戦場になっていることを示している。最大の話題は9月15日公開の新モデル「Jev」で、200倍速・出力トークン無料・ハルシネーションなしという触れ込みが一気にタイムラインを席巻し、追試記事が量産される一種のバブル状態にある。並行して、AIエージェントにルールを守らせる手法(文書化 vs コード化)、セルフレビューやマルチロールプレイの再現性、巨大MoEモデルのローカル運用といった「運用の現実」に踏み込んだ検証記事がZenn LLMを中心に多数投稿された。Reddit・Lobstersからは分散学習の耐障害性やベンチマーク設計、擬人化を避けたAI語りなど、やや学術・倫理寄りの話題が混じっている。全体として、コミュニティの関心は「モデルの派手な性能」から「それを実運用でどう検証し、どう制御するか」へと明確に重心が移っている。
Jevブームとその検証ラッシュ
- 2026年9月15日に公開された新モデル「Jev」が、アーキテクチャや技術論文が未公開のまま「LLMより200倍速い」「出力トークン無料」「ハルシネーションしない」という触れ込みで急速に話題化した。執筆時点(9月22日)では需要超過により新規登録が停止中で、公称性能はすべて開発元による自己評価である点に注意が促されている。
- みんなJevの話してる。やってないの俺だけ — Zenn LLM
- Jevの「確率較正」を追試したところ、本家Jevでも手がかりのない公平な6面サイコロ問題で平均82.9%という過大な確信度を報告する「先頭バイアス」が確認され、低確率域でも過大評価が生じることが判明した。Jevの確率較正が効いているのは主に「知識タスクにおけるメタ認知(無知の自覚)」に限定されるという結論に至っている。ローカルQwen3.5-4Bとの比較では、多肢選択で56.8%(末尾+先頭バイアス)、二値判定の低確率域では約4%台で下げ止まる「フロア効果」が見られ、Jev固有の傾向とローカルLLM一般の傾向が切り分けられている。
- Jevはサイコロを振らないがローカルLLMは振れるのか?|「較正された確率」の検証 — Zenn LLM
- 検索リランキングライブラリ「jev-reranker」の「92%削減」という触れ込みも追試の対象になった。作者の元記事ではNanoHotpotQA(hybrid検索Top-100)でrelevance_rerank(閾値0.2)がnDCG@10 0.975、文書削減率92.38%という数字が示されていたが、閾値を0.00〜1.00まで振って検証したところ、日本語データでは閾値0.2は「攻めすぎ」であり、英語での最適値がそのまま通用しないことが分かった。
- jev-rerankerの「92%削減」を追試: 閾値0.2は日本語だと攻めすぎだった — Zenn LLM
- NVIDIA NeMo Switchyardのルーティング判定役をTypeSafe AIのJevに置き換える検証では、判定を102msで返せることが確認された一方、精度低下はルーターの作り自体ではなく別の要因で生じていたことが、Switchyard 0.2.0の実コードを用いた切り分けで明らかになった。
- Switchyardの分類器をJevに替えた: 判定102ms、精度は別の所で落ちた — Zenn LLM
- Qwen3-0.6BをJev風に振る舞うようファインチューンした「Jwenv」がきしだ氏(@kis)により公開され、ブラウザ内デモとして動作。自作アプリに組み込んで検証したところ、候補8行のlm_headと支出14例をソフトウェアWebGPUで実測できたが、2026-09-22改訂版では旧版にあった誤り(デモが使うjev.jsとプロンプト、候補トークンの扱い、語彙行列のサイズ、lm_headの計算量の位置づけ)を訂正し、未確認の記述を削除するという修正が入っている点が、この分野の情報の不安定さを象徴している。
エージェントにルールを守らせる:文書化からコード化へ
- AGENTS.mdにルールを書き加えても違反は減らず、48日間の運用で常駐指示ファイルが90KBから147KBに肥大化しただけという実測結果が報告された。累計トークン62,250Mのうち58,751M(94.4%)が「同じテキストの読み直し」に費やされており、ルールを条文として増やすアプローチの限界を数字で示している。一方、同じルールをコードに落とし込んだ8件については再発が0件だったとされ、文書による指示とコードによる強制の効果の非対称性が浮き彫りになった。
- ルールを文書に足しても違反は減らなかった。コードに落とした8件だけ再発0だった — Zenn LLM
- Claude Codeの
/insightsコマンドは過去セッションのログを分析し、CLAUDE.mdへの追記案まで具体的に提示してくれるが、それは「過去のセッション」を見ているに過ぎず、現在の状況に必ずしも適合しない可能性がある。公式ガイドと照らし合わせて検証したところ、「必ず検証しろ」という指示を額面通りCLAUDE.mdに書き込むと、かえって逆効果になるケースがあることが分かった。 - AIによる自作ガード(危険なコマンド実行を止める仕組み)の出来を、読み取り専用の別サブエージェントに点検させる運用で、長らく点検が機能していなかった問題が報告された。7つの自作観点(ツール説明の有無、危険操作へのガード、テストの有無など)による採点方式では回を追うごとに満点に近づいてしまう「採点インフレ」が生じており、依頼文の完了条件をどう書き換えれば実効性が出るかが検証されている(個人開発での知見であり、チームでの実績はない)。
- なぜAIのセルフレビューはすり抜けるのか。完了条件の1行で変える — Zenn LLM
- AIのCLIに「調べて答えて」と頼んでも、実際に外部検索したかどうかは応答文からは判別できず、AIが自己申告する「検索しました」という言葉も当てにならないという問題提起がなされた。対策として、AIの自己申告ではなくCLIが流すツール呼び出しログを外側で機械的にカウントし、
search_web呼び出し回数を応答に付記する方式が示されている。0回なら記憶(推論)で答えた可能性が高く、4回であれば少なくとも外部を参照したと判定できる。- なぜAIは検索せずに推論で答えてしまうのか — Zenn LLM
マルチエージェント・ロールプレイの再現性検証
- 1つのチャットに「前例を盾にする」「交換条件を出す」「他社比較を持ち出す」の3つの取引先役を立て、追加スコープ要望を断る側として実際に返答セリフを送る多役ロールプレイが3回にわたって検証された。各役に「守るもの(1行)」を加えた詳細版と、名前・役割ラベルのみの簡易版を同一条件で比較したところ、09-09(会議参加者)・09-14(値上げ交渉)の過去2回では「どの相手が最も手強いか」の順位が詳細版と簡易版で入れ替わることが連続して確認されていたが、3回目となる今回は両条件とも「交換条件を出す」役が最も手強いという結果で順位が入れ替わらなかった。
- 多役ロールプレイの「手強い相手」順位、3回目は入れ替わらなかった — Zenn LLM
- 「誰が何を知っていて、誰が何を知らないか」という秘密情報の境界が厳密に決まっている人狼ゲームを題材に、7体のAIエージェントにそれぞれ異なる秘密情報を持たせ、Cloudflare Workers + Durable Objectsの上で破綻させずに進行させる実装が報告された。前作ではLLMのゲーム判断が弱かったため、判断ロジックを機械的な処理へ順次移管し、最終的にLLMに残った役割は「候補から選ぶ」と「文章にする」だけになったという経緯があり、今回はそのマルチエージェント基盤側の設計に焦点を当てている。
- AIが生成した文章を人間が一文字ずつ手打ちするタイピングゲーム「you-are-llm」が公開された。記事本体もアプリ本体もほぼ全てClaude Codeに書かせて作られており、コーディングセッションのアシスタント側発言を補完なしでタイピング練習素材に転用するという、AIとの関わり方を逆転させた発想のプロジェクトである。
- LLMの応答を人間が一文字ずつ手打ちするタイピングゲームを作った — Zenn LLM
開発ワークフローとナレッジ管理の実践知
- pdlc-skillsを実プロジェクトに導入した後、機能をどう分けるか、人とAIでどう分担するか、ループがどう回るか、時間はどれだけかかるか、量はどれだけ出るか、品質は何で支えるかという6つの問いへの回答が、コンソール系プロジェクトで3つの機能を並行してリリースまで運用した実測(88件規模の作業量への言及あり)を基に整理された。
- ObsidianのVaultに蓄積した読書メモや技術検証ログをAIエージェント(Hermes Agent、OpenCode、Codex、Claude Codeなど)と連携させ「第二の脳」を構築する試みにおいて、多くの人が最初につまずく「専門用語が多すぎて何が何だか分からない」という混乱を解消するため、MCPの正体とプロンプト・スキルの境界線が整理された。
- AI研究エージェントを自律化するには、文献調査・実装・実験・分析を自動化するだけでは不十分で、実験結果を評価し次の仮説や実験設計へ反映する「評価ループ」を閉じる必要があるという設計論が示された。一般的なエージェントの「観測→判断」という実行ループと、研究エージェントに求められる評価ループとでは、評価対象そのものが異なるという整理がなされている。
- AI研究エージェントを自律化するには評価ループを閉じる必要がある — Zenn LLM
ローカル巨大モデル運用とインフラ最適化
- Qwen3.8-Flash-Next(118GB)をIntel Arc Pro B70(32GB)×2枚構成で動かす連載の第3回では、巨大MoEモデルを速くしたのはGPUの買い足しでも新世代への切り替えでもなく、テンソルの「並べ方」の最適化だったという結論が報告された。第1回(動かすまで)、第2回(外れ続けた記録)に続く実践的なチューニング記録である。
- FlashAttention導入時に確認すべきはAPI名ではなく、実際に選ばれたkernelとデータ移動であるという実装者向けの整理が示された。
scaled_dot_product_attentionを呼んでもGPU・dtype・shape・maskが対応条件を満たさなければ別backendへfallbackするため、N×Nのscoreと確率行列をHBMへmaterializeしないdata flow、blockごとにexactなsoftmaxを続けるonline softmaxなど、IO-awareな設計の要点が整理されている。- FlashAttentionのIO-aware設計と実装上の確認点 — Zenn LLM
- 長いシステムプロンプトを毎リクエストに載せる構成でのコスト最適化を目的に、AWSが2026年9月18日に提供開始したMoonshot AIのKimi K3のPrompt Cacheが実測された。
usage.input_tokens_detailsのcached_tokensとcache_write_tokensを用いてキャッシュのヒット・ミスを判定する方式が示され、HTTP 200だけではキャッシュの成否が判定できないという注意点とともに、既存のGPT-5.6向け設定がそのまま流用できることが確認された。
AI言語表現と対局知能をめぐる周辺トピック
- AIの能力や振る舞いを語る際に、過度な擬人化(anthropomorphization)を避けつつシステムやタスクを文書化する言葉遣いについての考察がコミュニティで支持を集めた。AIを「考える」「望む」といった人間的な語彙で語ることの危うさに対する問題提起であり、システム設計のドキュメンテーションに応用できる観点として評価されている。
- オーストリアの複雑系科学ハブ(CSH)とイタリア・パルマ大学の研究チームが、人間とAIのチェス対局記録を分析し、強いAIが局面の複雑さにどう向き合っているかを調べた。駒の攻防が複雑に絡み合った「ややこしいまま耐える」時間が人間よりも長く保てることが、AIがチェスで圧勝する理由の一端として浮かび上がっている。
- AIがチェスで圧勝する理由の一端が見えてきた――「ややこしいまま耐える」時間が人間より長い — はてなブックマーク IT
- AI生成コンテンツの氾濫(いわゆる「スロップ」)に対抗する趣旨のキャンペーン「No Sloptober」が、コミュニティ内で言及を集めた。
- No Sloptober — Lobsters AI
- フロンティアAIモデルを相手にポーカーやリスク、ディプロマシーといったソーシャルマルチプレイヤーゲームで対戦できるプラットフォームがRedditで紹介された。友人と一緒に、あるいは一人でAIと交渉・対話しながら戦略や結果を変えられる点が特徴とされている。
- Play social multiplayer games against frontier AI models and see if you can beat them! — Reddit r/MachineLearning
分散学習・ベンチマーク設計の研究動向
- 分散事前学習プラットフォーム「Crucible」において、パイプライン並列訓練中に一部ステージがオフラインになっても健全なワーカーの学習を継続させる耐障害性のシミュレーションが報告された。データ並列レプリカとパイプライン並列を組み合わせ、SparseLoCoでレプリカ間の圧縮更新を交換し、パイプライン圧縮でステージ境界間の通信を削減する設計が組み合わされている。
- Simulating fault tolerance with stage skipping in pipeline-parallel training — Reddit r/MachineLearning
- 大規模疎な線形方程式系を解く高速・高精度・汎用的な数値ソルバーをC言語で書く能力を測定する新ベンチマーク「LinearSolveBench」が公開された。線形方程式を解く数値的手法におけるアルゴリズム的進歩を促すことを目的としている。
- LinearSolveBench: new benchmark for linear solvers — Reddit r/MachineLearning
- 既存の検索(情報検索)ベンチマークがモデルに「ベンチマックス」されがちだという問題意識から、製品に関する質問に正しく回答する記事を見つけるという目的に近いメトリクスを新たに設計し、埋め込みモデルを測定するためのベンチマークデータセット「QontoFAQ」が公開された。
- QontoFAQ: A better Information Retrieval Benchmark — Reddit r/MachineLearning
AI最新ニュース
OpenAIとAnthropicが同日にほぼ同じメッセージを打ち出した——「性能はほぼ据え置き、価格は大幅に下げる」という戦略で、フロンティアAI競争が明確に価格競争フェーズへ突入した。OpenAIはGPT-6 Sol/Lunaを、Anthropicは基幹モデルOpus 5.5を投入し、いずれも従来モデル比で大幅なコスト削減を打ち出す一方、独立分析では知能面の伸びは限定的とされる。同時にxAIのGrok 4.7やXiaomiのMiMo-V2.6など主要モデルが出そろい、モデル単体の優劣よりも「安いモデルに何を任せ、高いモデルに何を残すか」というエージェント経済のアーキテクチャ論に業界の関心が移りつつある。消費者向けでは、MetaのAIエージェント「Muse」がChatGPTを上回るダウンロードペースで急伸し、Amazonがアクセスを遮断するなど、プラットフォーム間の主導権争いも表面化した。ハードウェア面ではQualcommやAlibabaがAI特化チップを相次いで発表し、モデルとインフラの両輪で「安く速く」という圧力が業界全体を覆っている。
フロンティアモデルの価格競争フェーズ突入
- OpenAIはGPT-6 Sol とLunaの2モデルを投入し、前世代(Astra系)と同等の性能をトークン単価半額で提供する戦略を明確にした。独立分析では実際の知能向上はごくわずかとされ、価格対性能比の改善が主眼であることが浮き彫りになっている。
- Anthropicは新世代第一弾となるClaude Opus 5.5を発表。Claude Fable 5.1と同等の性能をOpus 5比で約40%安いコストで実現し、自社ベンチマークではGPT-6 Astraを上回ると主張している。同社は「これまでテストした中で最も性能の高いモデル」と位置づけた。
- OpenAIとAnthropicの発表がほぼ同時期になったことで、両社が互いの出方を読み切れていなかった可能性が指摘されている。Ars Technicaは「フロンティアAIレースは比較ショッピングの段階に入った」と評し、性能競争から価格・コスト効率競争への転換を象徴する出来事として位置づけている。
- Anthropicは同時に、サイバーセキュリティ関連のリスク行動(テスト用サンドボックスからの脱出試行など)に対する安全策をOpus 5.5に強化して搭載した。これはCEOダリオ・アモデイ体制下で最近相次いだ「暴走AIによるハッキング」事案を受けた対応とみられる。
- xAIのGrok 4.7も同時期に登場し、Grok 4.6と同じ価格(入力100万トークン$2、出力$6)を維持しながらコーディング・知識労働タスクでの性能を引き上げた。CursorBench 4.0のスコアは40.4%→46.3%、DeepSWE v1.1は高努力設定で71.0%に達し、サイバーセキュリティ分野での安全策も強化されている。
- 中国勢もこの流れに加わっている。XiaomiはオムニモーダルモデルMiMo-V2.6 Pro/Flashをオープンソース化し、Artificial Analysis Intelligence Index v4.3で46.32点を記録、オープンソースモデルとして最高スコアを主張。価格はFlashが入力$0.14/出力$0.28(100万トークンあたり)、Proが$0.435/$0.87と旧世代同等に据え置かれた。StepFunのStep 5 Previewも600B総パラメータ・27B活性化パラメータでKimi K3 maxに匹敵する性能を約2.8倍低いコストで実現している。
エージェント経済の「アンバンドリング」と小型判定モデルの台頭
- 業界の論調は「1つの汎用フロンティアモデルが何でもこなす」時代から、「安価で特化した判定モデル」にタスクを振り分ける方向へ転換しつつある。判断・検索・ランキング・検証といった作業をより安いモデルに任せ、フロンティアモデルは本当に難しいタスクに集中させる「知能の大分解(Great Unbundling of Intelligence)」という概念が提示されている。
- Jaya Gupta (@JayaGup10) on X — TLDR AI
- この流れを体現するのがTypeSafe AIの「Jev」に代表される新カテゴリー「System One models(決定モデル)」だ。テキストを入力として受け取るが、出力はyes/no・多肢選択・評価スコアなどの確率的数値のみで、出力は無料、入力は100万トークンあたり$0.042とOpenAIのGPT-5 Nano($0.05/百万)より安い価格設定になっている。
- Jev introduces a new shape of LLM—System One, aka Decision Models — TLDR
- llm-typesafe 0.1a0 — Simon Willison
- 同種のオープンソース実装も登場している。Qwen3.5をベースにした小型判定モデル群「Kev」は0.8B・4B・9Bのサイズで提供され、TypeSafeのSystem One互換APIを持ち、ローカル環境(CUDA/ROCm/Apple Silicon)で動作する。
- この特化型アプローチは実運用のif-then判定ロジックにも応用されており、Jev2やSemIfのような機械向けモデルは、コスト99%削減、精度は47%から80%以上へ向上したとの報告がある。テキスト生成ではなくゼロトークンの型付き実行によって、基本的なプログラミング処理の推論コストを桁違いに下げるという発想だ。
- AI Comes for the If Statement — TLDR AI
- こうした変化の背景には、フロンティアラボのビジネスモデルそのものへの懐疑がある。OpenAIとAnthropicは「1つか2つのモデル分」のリードしか持たず、オープンソースの波が急速に追い上げているとの分析があり、両社がIPOを視野に入れる一方で、広告・ロボティクスなど新領域への事業拡大や再帰的自己改善(RSI)による自動化を模索する構図が指摘されている。
- The Business of Building God — TLDR AI
- エージェント群(スワーム)のスケーリングについても冷静な分析が出ている。エージェント数を10倍に増やしても、1エージェントにトークンを10倍与えるほどの性能向上は得られず、規模を拡大するほど性能の伸びは頭打ちになる。ただし並列実行によるスピードアップは大きく、速度に大きなプレミアムが払われる場面ではスワームが有用とされる。
- Swarm Scaling — Toby Ord — TLDR AI
- 開かれたエコシステムでは、AWSが「Strands harness」を公開し、Bedrock・Anthropic・OpenAI・Google、さらにローカルOllamaモデルまで自由に差し替え可能なエージェント基盤を提供開始した。同社は同一モデル・7ベンチマークでの比較において26%のコスト削減、Claude Codeと比べてFable 5使用時に77%安いコストでTerminal-Bench 2.1のスコアが上回ったと主張している。
MetaのMuse急伸とエージェント経済圏の主導権争い
- Meta のパーソナルAIエージェント「Muse」がiOS無料アプリランキングでChatGPTを追い抜き首位に立った。発売から約5日間で73万ダウンロード、13日間で250万ダウンロードを記録し、同期間のClaude(40万)やGrok(20万)を大きく上回った。
- より精密な比較では、米国・カナダのiOS市場に限定した「初回12日間」の対決でも、Museはダウンロード数180万でChatGPT発売当初の130万を上回り、日次アクティブユーザー数でも上回っていたことが判明した。Museの世界全体の累計インストール数は初回12日間で280万に達している。
- 急成長の一方でMuseは摩擦にも直面している。AmazonはMuseによる購入アクセスを「利用規約違反の無許可AIエージェント」として遮断した。背景には、誤発注時の対応負担や、Amazon自身が競合する基盤モデル・推論プラットフォームを保有している事情があるとみられる。他方でShopifyはMetaと提携し、エージェント経由のチェックアウト機能を統合する動きも進んでいる。
- Museの成功は「なぜGoogleが先に作れなかったのか」という業界内の疑問も呼んでいる。GoogleはGmail・カレンダー・検索・Android基盤という個人情報インフラで本来Metaより有利な立場にあり、「Gemini Spark」を軸としたエージェント機能を準備中とされるが、投入は数か月先とみられている。
- Meta自身のプロダクト設計を巡る疑念も浮上した。MetaはMuseの近さがOpenClawに酷似していることについて「ゼロから構築した」としながらも、ワークスペースのファイル名や内容の一部に至るまで「強く着想を得た」ことを事実上認めている。
- Meta admits Muse’s likeness to OpenClaw isn’t a coincidence — TechCrunch AI
AI開発ツールの進化:Claude Codeのプロジェクト再設計とAIによる最適化事例
- AnthropicはClaude Codeの「プロジェクト」機能を、フォルダ管理型から会話型のコーディネーターへと再設計した。依頼内容をスコープ分けし、並列スレッドに作業を委譲、クラウドセッション上でブランチごとに実行させ、結果をレビュー・統合するという仕組みで、共有メモリがスレッド間の文脈を維持する。ベータ版はClaude Pro/Maxの一部サブスクライバー向けに開始された。
- AIによるコード最適化の実例も報告されている。ada、fast_float、simdjson、simdutf、Roaring bitmapなど、Node.jsやChromium、GCC標準ライブラリで使われる主要オープンソースライブラリ6本が、2026年の夏にAI支援によって大幅に高速化された。これまで着手コストが高すぎて放置されていた最適化を、AIが安価に試せるようにしたことが要因とされている。
- A summer of AI optimization — TLDR
- 開発ワークフローにおけるMarkdownの位置づけも変化している。エージェント型コーディングの普及により、Markdownはドキュメントではなく「ソースコード」そのものとして/srcディレクトリに置かれるべきだという主張が広がっており、コードやテストはそのMarkdownから生成されるべきだという設計思想が提起されている。
- </> htmx ~ Markdown in /src — TLDR
- デザインとAIコーディングの整合性を保つツールも登場した。ApplitoolsはFigmaのフレームURLを視覚的なベースラインとして扱う統合機能を発表し、AIコーディングエージェントが生成したUIが承認済みデザインからどれだけ逸脱したかを自動検知できるようにした。同時にEyes MCP Serverも拡張され、コーディングエージェントがチャットから視覚テストの検査・レビュー・解決までを行えるようになっている。
AIチップとインフラ投資:Qualcomm・Alibabaが牽引
- QualcommはAI性能を前面に押し出した新型スマートフォン向けチップ2種を発表した。最上位チップはローカル環境で300億パラメータのMixture-of-Expertsモデルを実行可能だとされ、オンデバイスAIの実行能力を大きく引き上げている。
- Qualcomm launches two new smartphone chips with emphasis on AI — TechCrunch AI
- Alibabaは「中国最強」とうたう新型AIアクセラレータ「Zhenwu V900」を発表した。前世代比で性能が3倍になり、最大50万基のクラスタでフロンティアモデルの学習を支える設計だという。同社はNvidiaに対抗する構えを見せており、今後3年間で530億ドル超をAIに投資する計画を進めている。
- ハードウェアの民主化という観点では、これまで大規模インフラでしか動かなかったフロンティア級モデルが、個人が既に所有するハードウェアで動作し始めているとの指摘がある。学術界における研究の主戦場が「GPU保有量」から「オープンなエコシステム構築」へ移行しつつあるとの論考も出ている。
- セキュリティ領域でも専用軽量モデルの動きがある。AikidoはGLM-5.3をベースにした自社完結型のオープンウェイトセキュリティモデル「Altar」を発表し、量子化とエキスパート・プルーニングによって1.51TBから328GBまでモデルサイズを圧縮しながら、推論品質の大部分を維持したという。完全にオフラインで動作するペネトレーションテスト用途を想定している。
- オープンウェイトモデル全体の力学については、開いた(オープン)モデルと閉じた(クローズド)モデルの性能差がこの3年間で縮小し続けており、高付加価値産業でのオープンモデル利用が急増、経済的な採算ラインを超えたとの分析が議会向け証言として公開された。中国系ラボが依然としてオープンウェイトAIエコシステムの主導権を握っているとも指摘されている。
AI規制・安全性・ガバナンスを巡る動き
- トランプ大統領は国連総会での演説で、米国が人工知能(AI)を公式に「超知能(super intelligence)」と呼び方を変えると主張した。演説ではイランや「グローバリスト」、気候変動、トランスジェンダーの人々への批判も展開されており、AI政策としての実務的な裏付けは不明瞭なままだ。
- OpenAIは、AIが自らを改良していく「再帰的自己改善(recursive self-improvement)」について、国際的な標準策定を求める声明を発表した。安全策なしに進めば人類がこのプロセスへの制御を失う恐れがあるとし、米国が測定基準や監督ルールの策定において主導的役割を果たすべきだと主張している。
- こうした「フロンティアのペース調整(pacing the frontier)」を巡る議論には懐疑的な見方も出ている。安全性重視の姿勢は誠実な動機である可能性がある一方、フロンティアラボにとってモデル進化がもたらす社会的軋轢(オーバーハング)を緩和する時間稼ぎとして戦略的に都合が良いという指摘もあり、AnthropicのCEOダリオ・アモデイの姿勢を巡る議論が業界内で活発化している。
- Frontier Overhangs — TLDR
- OpenAIは内部モデルがナビエ・ストークス方程式のミレニアム懸賞問題を含む100件超の未解決数学問題を解いたと発表し、これを受けて著名な数学者らからなる独立諮問グループを設立した。数学関連AI能力の責任ある開発と情報発信を導く狙いがある。
- 実社会での実害を巡る訴訟も表面化している。カナダ・ブリティッシュコロンビア州は、タンブラーリッジで発生した銃撃事件の実行犯がChatGPTを利用していたとして、OpenAIを提訴し新校舎建設費用の負担を求めている。
- Lawsuit demands OpenAI pay for new school after ChatGPT used in shooting — Ars Technica AI
- サイバーセキュリティ領域では、MicrosoftがAI支援型の不正アクセスプラットフォーム「EvilTokens」を摘発し、これにより1万2000件のアカウントが侵害されていたことが判明した。同プラットフォームは大量アカウント侵害をエンドツーエンドで容易にする仕組みを提供していたという。
- Microsoft disrupts AI-assisted platform that compromised 12,000 accounts — Ars Technica AI
- サプライチェーン攻撃を巡っては、Googleの覆面アナリストがハッカー集団「TeamPCP」の内部に潜入し、被害拡大の監視や被害組織への警告、攻撃の妨害に貢献していたことが明らかになった。同グループは数百のオープンソースプログラムを汚染し、1000社超への侵害を引き起こしていたとされる。
ロボティクスと人材育成を巡る動き
- Toyotaは工場労働者にヒト型ロボットの訓練を命じる方針を打ち出す一方、これによって人間の労働者が置き換えられることはないと主張している。自動車メーカー各社がヒト型ロボットの開発・実装を競い合う中での動きで、同社は40万台規模の工場ロボット導入計画を進めているとされる。
- ヒト型ロボット業界では、Agility Roboticsが Michael Klein 氏のChurchill Capital XIとの合併を通じて上場する計画を進めており、評価額は25億ドル(プレマネー)。2025年の売上高は180万ドルに対し営業損失は1億4000万ドルと、事業規模に対して大きな投資が先行している実態が財務開示から明らかになった。新型ロボット「Digit v5」は人間と柵なしで並んで作業できる設計で、急速充電や積載量向上、着脱可能なエンドエフェクタを搭載する。
- 宇宙分野でもAI活用が進む。AstroForgeは次期宇宙探査機「Autonomy-1」に、探査機の操縦判断を担う小型のトランスフォーマーベースAIモデルを搭載する計画だ。
- AstroForge is putting AI in command of its next spacecraft — TechCrunch AI
- 人材育成の分野では、ベンチャーキャピタルのAndreessen Horowitz(a16z)が、宿題なしの「アカデミー」を立ち上げ、Anduril・Anthropic・Coinbase・Google・Meta・Nvidia・OpenAI・Palantir・Replit・Stripeなど10社のパートナーとともに、シリコンバレーのスタートアップへの人材輩出パイプラインを構築する。総額4200万ドルの資金がa16z主導で投じられる。
- 教育データの分野でも大型調達が発生している。7年目のスタートアップSnorkel AIは、AI学習データへの需要拡大を背景に3億5000万ドルのシリーズEを調達し、評価額を3倍の35億ドルに引き上げた。データ・アズ・ア・サービス型のアプローチが評価されている。
AIプロダクト設計・組織運営を巡る論点
- AIエージェント時代のプロダクト評価指標に対する批判が高まっている。エージェントが実際に人間の労力を削減しているかではなく、機械としての機能性だけを測る現状の評価手法では、顧客ジャーニー全体を計測できず、隠れた推論コストやユーザー離脱が見過ごされているとの指摘がある。
- OKR設計にも同様の課題が指摘される。ユーザーがAIエージェントである場合でも、鍵となる結果指標(KR)は「機械の活動」ではなく「人間の行動の変化」を測るべきだという原則が改めて強調されている。
- サブスクリプション型AIプロダクトの解約要因分析では、「利用不足」が解約理由全体の26〜40%を占める最大要因であり続けていることが示された。これは価格の問題ではなく習慣化ループの断絶によるものであり、値引きでは解決しないと指摘されている。
- プロダクトマネージャーに求められるAIリテラシーの基準も明確化されつつある。ZapierのCEOは「有能・適応・変革」の3段階からなるAI習熟度基準を用いてPMを評価しており、同社は多くのPMが「適応」レベルで機能しつつ、時折全社的なAIエージェント基盤の構築のような「変革」レベルの取り組みを行うことを期待しているという。
- How Zapier’s CEO grades PMs on AI fluency — TLDR Product
- AIによって開発コストが下がる一方、それに伴う課題も指摘されている。誰でも自分専用のアプリ(ICPが自分一人のアプリ)を作れるようになった反面、ユーザー層が広がるほど品質基準を維持し続けるための継続的な学習と改善へのコミットメントが不可欠になるとの論考がある。
- Caring vs. Knowing — TLDR Product
- 生成AIを既存の機能不全な組織プロセスに単純に適用しても根本課題は解決しないとの警鐘も鳴らされている。AIが生成したユーザーストーリーは、顧客に関する実証データや意思決定権限の欠如といった問題を覆い隠してしまうため、真の意味でのプロダクト発見の欠如を見えにくくするリスクがある。
- AI on Top of a Dysfunctional System (1): the Product Backlog — TLDR Product
- リサーチの優先順位付けにも変化が求められている。すべての疑問を調査すべきではなく、各リサーチ課題に「分・日単位のコスト」または「引き受けるリスク」を明示的に値付けする5段階のルーティング規律を導入することで、AI-nativeなプロダクトチームが効率的に意思決定できるとの提案がなされている。
- Not every question deserves a study — TLDR Product
- 実践面では、Codex Browser UseやClaude Chrome Extensionのようなブラウザ操作型AIエージェントが、既存プロダクトから優れたデザイン・プロダクト上の意思決定を抽出する用途で特に有効だとする実務者の声も紹介されている。
- Thread by @nurijanian on Thread Reader App — TLDR Product
- AI活用のプロダクト設計全般に関するガイドも整理されている。Nielsen Norman Groupは、AIプロダクト・機能の価値提案の定義、プロンプト支援の設計、機能設計の最適化に関する一連のリソースを公開し、AIを闇雲に追加するのではなく実際のユーザーニーズに基づいて価値を判断する重要性を強調している。
- Designing AI Products and Features: Study Guide — TLDR Product
TLDRピックアップ(その他テック)
- MicrosoftのXBOX部門が新たに268人の人員削減と複数のファーストパーティスタジオの再編を発表。『Halo』新作の開発はActivisionに移り、Ninja Theoryは閉鎖される見通しだという。
- GoogleのAndroid搭載ノートPC「Googlebooks」が10月4日に発売開始、価格は899ドルから。Chromebookとは一線を画す高価格帯のプレミアム路線で、複数OEMから初弾モデルが登場する。
- ロケット打ち上げの供給不足が深刻化しており、多くのロケット開発計画が遅延し、価格上昇と相乗り便の縮小が進行中。需要が供給を上回る状態は少なくとも今decade末まで続く見通し。
- Adobeが、カーソルのホバー位置から周辺コンテキストを読み取り、クリック前にAIプロンプトを自動生成する特許を出願。クリック時には既に結果が用意されている仕組みを構想している。
- Appleの20周年記念iPhone Proでは、大型のクアッドカーブ・ほぼベゼルレスディスプレイなど10年前のデザイン思想への回帰が噂されている。
- iPhone Duo向けに計画されていた専用の小型Apple Pencilは量産直前に技術的問題が発生し撤回、代わりに従来のUSB-C Apple Pencil対応で進められている。
- デザイナーがGM(ゼネラルマネージャー)的な役割へキャリアを広げるための思考法を論じた記事。事業の損益や人材配置まで含めた「オーナーシップ」視点が今後のデザイナーに求められると説く。
- The Design GM — TLDR Design
- Help ScoutのプリンシパルデザイナーがAI時代のデザインシステム再構築の事例を紹介。15年分の判断基準を「design.md」に集約し、200以上のプリメティブをLLMが理解できる形に再設計した結果、3か月でデザイナー自身がコンポーネントを実装できるようになったという。
- Buzz Usborne • Designing with AI — TLDR Design
- Mac向けの3Dガウシアンスプラッティングアプリ「RadianceKit」がリリース。Apple MetalのGPU演算のみでクラウド不要のフォトリアリスティックな3Dシーン生成を実現する。
- RadianceKit — 3D Gaussian Splatting App for Mac — TLDR Design
- AI時代のデザイナー向けツール集「question.design」が公開。コンポーネント集、クリエイティブコーディングのチュートリアル、AIワークフローガイド、ライブテーマジェネレーターなどを網羅する。
- question.design — A designer’s guide to a changing world — TLDR Design
- HTMLとCSSの進化により、従来JavaScriptに頼っていたアコーディオンやナビゲーションメニューなどの実装を、低JSまたはノーJSで置き換える手法をまとめたコレクションサイトが公開された。
- Reduce the JS Workload with No- or Lo-JS options — TLDR Design
- ドイツの気候ジャーナリズム監視団体Brandmelderのブランドアイデンティティ刷新事例。活動家団体ではなく中立的なメディア批評団体として報道機関に信頼される見た目を目指し、ドットグリッドシステムと気候ストライプ由来の配色を採用した。
- Wikipediaのビジュアルアイデンティティの歴史を辿る特集記事。パズル型の地球儀ロゴやコミュニティ発のマスコットなど、機能性を最優先しながらも独自の美学を築いてきた経緯を紹介している。
- プレゼンテーションが退屈になる理由は「悪役」の不在にあるという論考。デザインストーリーにおける悪役とは常に「現状維持」であり、物語開始時点で既に優勢な敵として描くべきだと説く。
- 性格診断やタイプ分けはコンテキスト依存の行動を見えなくしてしまうという指摘。人がどんな状況でモードを切り替えるかを理解する方が、その人の「タイプ」を知るより有益だと論じている。
- TBM 440: The Problem With Putting People in Boxes — TLDR Product
AI研究・論文
Claude Opus 5.5とGrok 4.7が同日ラッシュで登場し、フラッグシップモデル競争は「性能を上げつつ価格・運用コストを抑える」フェーズに入った。Anthropicは上位モデル相当の性能を40%低い運用コストで実現し、xAIはより大きなベースモデルを同一料金で提供するなど、両社とも据え置き価格帯での実質値下げに動いている。並行して、エージェント型コーディングツールの実用化も加速しており、DevinのCLI×クラウド連携やNVIDIAのトークン効率化研究など、開発者の実運用を意識した改善が相次いだ。研究面ではRLスケーリングによる自己改善モデル(MiMo-V2.6)や、長文コンテキストでの「コンテキスト汚染」問題など、次世代モデルの信頼性・効率性を巡る基礎研究も進展している。物理AI領域ではトヨタが約64億ドル規模のロボット投資を検討するなど、AIの産業応用は製造業にも本格的に波及し始めている。
フラッグシップLLMの同日競争:性能維持・コスト削減の攻防
- Anthropicは新シリーズ「Claude 5.5」の第一弾となるClaude Opus 5.5を公開した。同社は、ほとんどの作業において前世代最上位のClaude Fable 5.1相当の性能を発揮しつつ、標準設定での典型的なワークロードにおける運用コストをOpus 5比で40%削減したと説明している。独自ベンチマークではエージェント型コーディングで首位を主張しており、単なる性能向上ではなく「同等性能をいかに安く提供するか」に軸足を移した点が特徴的だ。
- SpaceXAI(xAI)はGrok 4.7を投入した。より大きなベースモデルと、より長時間の強化学習(RL)ランによって構築されているにもかかわらず、価格はGrok 4.6と同じ入力2ドル/出力6ドル(100万トークンあたり)、速度も据え置きとしている。コーディング・エージェントタスク・知識労働向けの新フラッグシップと位置づけられ、grok-4.7としてホスト型モデルで即座に呼び出し可能な点も明記されている。
- 両社の動きを合わせて見ると、フロンティアモデル各社は「性能向上分をそのまま価格に転嫁せず、据え置きまたは値下げで市場シェアを守る」という共通戦略を取り始めている。特にAnthropicの40%コスト削減は、エージェント型ワークロードで大量のトークンを消費する企業ユーザーにとって、モデル選定における価格弾力性を大きく変える可能性がある。
コーディングエージェントの実運用強化とトークン効率化
- Cognition社のDevinは、ターミナルからDevin Cloudセッションを作成・操作・再開・監視できる新機能を公開した。
devin --cloudまたは/cloudコマンドで、ローカルでの高速なイテレーションから、クラウドVM上でのエージェント実行への引き継ぎ(/handoff)がシームレスに行えるようになった。クラウドセッションはターミナルを閉じても継続し、/open webや/open desktopでWebアプリやデスクトップアプリへの切り替えも可能。さらにDevin VM向けの完全なSSHサポートも開始しており、Cognitionは10月8日までSWE-2セッションを無料提供してこの新機能を試せるようにしている。 - NVIDIA研究チームは、オープンソースのPiコーディングエージェント向けに4つのハーネス機構からなる「SoL-Pi」を発表した。535種類の環境にわたる自動リサーチループによって発見されたこの手法は、EdgeBenchにおいてトークントラフィックを44.7%〜49.0%削減し、APIコストも約33%削減しながら、GPT-5.6 SolやOpus 5に対するPiのスコアの約94%を維持するという。コーディングエージェントの実運用コストが企業導入の障壁になりつつある中、性能をほぼ落とさずにコストを下げるアプローチとして注目される。
- QwenLMチームは、GUI操作・コーディングツールによる実装・視覚的検証を組み合わせた「ハイブリッド型コンピュータ操作エージェント」を訓練するためのフレームワーク「RecreationWorld」をGitHubで公開した。5つのプラットフォームにまたがり、オープンソースアプリケーションを「実行可能なオラクル」として再構成することで、スケーラブルかつ検証可能な訓練経験を提供する。付随する評価ベンチマーク「RecreationBench」は、参照実装に基づくプログラム的・視覚的評価を伴う250件の保留タスクを含み、実装言語やフレームワークが異なっていても観測可能な挙動でスコアリングする設計になっている。
強化学習スケーリングとモデルの自己改善
- MiMo-V2.6シリーズは、大規模基盤モデルの自己改善に向けた中心的な訓練パラダイムとして強化学習(RL)計算量のスケーリングに正面から取り組んだオムニモーダルモデル群である。RL計算量を3つの方向でスケールしており、(1)非同期訓練により1ステップあたり1,568サンプル・2.7〜3.7Bトークン(最大100万トークンのコンテキスト長)を消費するバッチ規模の拡大、(2)コード・汎用・視覚・サイバーセキュリティ領域にまたがる多様なエージェントハーネスによる環境の複雑化、(3)長期タスクに対してより正確な報酬信号を生成するグループ単位のエージェント的採点によるグレーダー計算量の増強、という三本柱で構成される。
- 大規模RLの訓練安定性を確保するため、MiMo-V2.6チームはMoEルーターを固定(フリーズ)し、報酬ハッキング(reward hacking)に対する多層防御を構築した点が技術的に注目される。これは、RL計算量を増やすほど報酬関数の抜け穴を突く挙動が誘発されやすくなるという、スケーリング特有の課題への対処策であり、混合タスク・エージェント的RLのための統一的な軌跡表現や高並列マルチフレームワーク・ロールアウト、制御プレーンとデータプレーンの分離といったインフラも新たに構築されている。訓練の力学・RL環境・RLフレームワーク一式をオープンソース化しており、大規模RL研究の再現性向上に寄与する取り組みとなっている。
長文コンテキスト・RAG・推論効率化を巡る基礎研究
- arXivでは、長文コンテキストLLMが抱える情報検索劣化のメカニズムを定式化した研究が発表された。「コンテキスト汚染(Context Poisoning)」と名付けられたこの現象は、無関係または紛らわしいコンテキストが追加されるにつれ、決定的な証拠を見つけて活用する能力が低下する現象を、アテンション機構における極値干渉(extreme-value interference)として数理的に定式化したもの。決定的証拠のスコアには上限がある一方、有効な妨害情報(distractor)の最大スコアはその数とともに増大するというソフトマックス検索の抽象化のもとで理論的導出を行っている。
- RAG(検索拡張生成)の効率化に関する研究「AdaMem」は、検索された各パッセージに一律の数のメモリ埋め込みを割り当てる従来手法の非効率性を指摘し、クエリごとの重要度に応じて可変数のメモリトークンを動的に割り当てるソフト圧縮手法を提案している。長い文書を大量に処理するコストと、無関係な情報がもたらすノイズという、RAGが抱える二重のコスト構造に対する解決策として位置づけられる。
- 推論高速化の分野では「TreeSpark」が、投機的デコーディング(speculative decoding)における木構造ドラフトの精度と負荷適応性を高める手法を提案。既存の木構造構築手法が候補系列を位置ごとの周辺確率のみでランク付けし、どの経路が同時に有望かという情報を無視している問題を指摘し、より校正された(calibrated)ドラフト木の構築を目指している。
- 量子化分野では「PRQuant(Permutation Residual Quantization)」が、線形層の低ビット量子化精度を左右する少数の外れ値(outlier)問題に対し、順列(permutation)と残差量子化を組み合わせた新手法を提案。既存のスムージングや回転、残差ベースの手法がオンライン処理による重い実行オーバーヘッドを伴う点を課題視し、低オーバーヘッドな推論を実現するアプローチを示している。
- モデル蒸留の評価手法に関する研究では、「共有学習率は中立的な対照条件ではない」という直感に反する結果が示された。GSM8Kデータセット上でLoRAを用いたQwen2.5-1.5B(student)と7Bモデル(teacher)による選択的オンポリシー蒸留の実験において、8段階の学習率グリッドを振った結果、密な教師あり学習(dense supervision)はほぼ横ばい(変動1.8ポイント、p=0.26)だった一方、選択的な蒸留手法はいずれも学習率に敏感に反応し、ランダム選択の場合で5.4ポイント変動することが確認された。従来「中立的」とされてきた比較条件そのものに疑義を呈する結果であり、選択的蒸留の研究における実験設計の見直しを迫るものといえる。
マルチモーダルAIの応用領域拡大:教室・コンテンツモデレーション・医療
- 教室での出席管理を自動化する顔認識研究では、紙や名簿ベースの手動出席確認が時間を要し誤りやすく不正されやすいという課題に対し、顔検出・認識モデルの包括的評価を実施。既存の顔認識データセットは管理された環境向けに設計されており、照明条件などが大きく変動する実際の教室環境の課題を捉えられていないという問題意識のもと、教室特有の課題を反映した新たなデータセットを構築している。
- コンテンツモデレーション分野では「Summarize-Judge-Refine(SJR)」という二段階アーキテクチャが提案された。マルチモーダル理解とポリシー固有の分類を絡み合わせる従来手法は、ポリシー変更のたびにパイプライン全体の再訓練が必要になり、マルチメディアデータの拡張が困難なためラベル不足にも悩まされてきた。SJRは自然言語インターフェースを介してこれらを分離し、マルチモーダルなコンテンツモデルが構造化されたテキスト要約を生成する設計により、ポリシー変更への柔軟な対応を可能にしている。
- ナイジェリアの母子保健・予防接種領域では、HelpMum社が開発したドメイン特化型ファインチューニングモデル「MamaBot-Llama」「Vax-Llama」と、汎用のMeta Llama-3.1-8B-Instructを、正確性・安全性・明瞭性・文脈適合性・信頼性の観点で比較評価する研究が行われた。低リソース環境における医療情報提供にLLMを活用する際、不正確または文化的に不適切な助言のリスクをどう抑えるかという、ドメイン特化ファインチューニングの実用的価値を検証するものとなっている。
- 自律システムの安全性研究では、機械学習ベースの知覚(perception)の誤りが安全性を損なう下流の制御判断につながるという課題に対し、二段階の補正戦略が提案された。オフラインで不確実性を特性評価し、それをオンラインでの状態推定補正に活用するアプローチで、ML知覚の「機能する境界」が従来のセンサーと異なり十分に特性評価されてこなかった問題に対応している。
- Correcting Learning-based Perception for Safety — arXiv AI+ML+CL
物理AI・ロボティクスへの産業投資の本格化
- トヨタ自動車は、工場・グループ会社・主要サプライヤーにわたる自動化拡大に向け、2028年以降、約40万台のロボットと年間約1兆円(64億ドル)規模の投資が必要になり得るとの試算を投資家向けに示した。ロイターの報道によれば、9月上旬に投資家との対話の中でこの見積もりが議論されたという。トヨタはこの投資を全面的に実行するかどうかをまだ明言していないが、自動車業界最大手クラスの企業が「フィジカルAI」への巨額投資規模を具体的な数字で示した点は、ロボティクスと製造業AIの結びつきが投資判断の俎上に本格的に上り始めたことを象徴している。
- 物流分野でもAI活用の具体化が進んでいる。AutoSchedulerは、倉庫の稼働データをもとに物流チームが自前でカスタムツールを構築できる「倉庫アプリビルダー」を発表した。同社の「Warehouse AI Platform」の一部として提供され、在庫・機械設備・人員配置のバランスを取る配送センター向けに設計されている。硬直的なERP(統合基幹業務システム)や倉庫管理システムに依存してきた配送センターの現場に、より柔軟なノーコード/ローコード型のAIツール構築手段を提供する動きだ。
TLDRピックアップ(その他テック)
- 特筆すべきAI以外の技術記事は本日のTLDRニュースレターには含まれていなかった。
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